息子には、かわいがっている一人の妹がいる。
とはいっても、人間ではなく、人形の妹である。これは、私が手しごと教室で習って作った「赤ちゃん人形」というもの。シュタイナー教育を行っている幼稚園などでは、よく見かける遊び道具のひとつだ。
てるてる坊主に似たつくりで、とても簡素な人形だ。胴体は、羊毛の束でできている。頭の部分もボール状に丸めた羊毛。それを、ピンクの薄いフェルト布でくるみ毛糸で首の部分をしばっている。洋服も同じピンクの布で作り着させた。足はなく、手は先端部分の布を結んでいるだけ。でも、人間と同じように、両手を頭上で合わせると、ぴったり合うように作られている。
程よい抱き心地の体に、固めの頭がつき、頭がぐらぐらしないというのも、赤ちゃん人形を作るうえで、大切だと先生に教えてもらった。それが、子どもにとって安心感を与えるのだろう。羊毛には、プラスチックの人形にはない、やすらぎと温かさを感じることができる。
顔はあえて描かずに、子どもに表情を想像させる余地を作ってあるのもシュタイナー教育の特徴だ。もし、描くとしても薄く点を描くくらいで十分だという。
息子に赤ちゃん人形を与えたのが、1歳半の頃。自分より小さいものをかわいがるという感情が芽生え始めた頃で、ゾウのパペット人形のパオーンちゃんをよく抱っこしていた。赤ちゃん人形は、顔もなくて、簡素なので、かわいがってくれるか心配だったが、抱っこしたり、私のおっぱいを飲ませようとしたり、自分が飲んでいるお茶を飲ませるマネをしたりして、よく面倒を見ている。最初は「あけちゃん(赤ちゃん)」と呼んでいたが、私が「いもうと」だよと言うと、「いもと」と呼ぶようになった。
2歳になろうとしている今は、いもとと一緒に、よくお昼寝をしている。また、遊び相手として、一緒にバスごっこをしたり、慰め役として泣いた時や怖がっている時に、そばにいてくれるのがいもとだ。
赤ちゃん人形のいもとは、ちょうど50センチくらいの大きさなので、新生児の身長とほぼ同じだ。私も、このいもとを胸に抱くと、息子が赤ちゃんだった頃を思い出し、ママになりたてで初々しかった気持ちに戻れるのだ。そして、もしも女の子がいたらこんな気持ちになるのかな? などと私も想像を膨らませて楽しんだりもする。
シュタイナー教育を行う幼稚園のバザーで購入した、たんぽぽで染めた黄色いシルクの布をいもとの頭につけて、王冠に見立てたヘアバンドで結ぶと、お姫様風になってかわいい。でも、息子はお姫様風よりも、てるてる坊主ないもとが好きなようで、すぐに布とヘアバンドは取ってしまうのが残念だ。
子どもは親の物の扱い方をよく見ているので、大事にしてやると子どももマネをすると、赤ちゃん人形の先生は話していた。
私も、赤ちゃん人形のいもとは、他のオモチャよりも特別扱いにしたかったので、オモチャ箱の一部屋をいもと用に用意し、そこに使わなくなった麦わら帽子にクッションを入れて、いもとを座らせるスペースをつくってやった。
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