横浜美術館で開催中の企画展『中島清之 日本画の迷宮』の招待券が手に入ったので、一人で観に行ってきた。
前回は、開館記念日の入場無料の日で、ベビーカーに乗せた息子と、かっとばして観てしまったため、じっくり作品と向き合うことができたのは、今回が初めてだった。
大正時代に京都で生まれた中島清之(なかじまきよし)は、横浜を終の棲家とした日本画家で、関東大震災の時は、わが家のある山手で被災したという。三渓園の襖絵を手掛けたことでも知られている。
優れた描写力と、新しい技法を次々と取り入れていく柔軟性と、創作意欲は晩年まで続いていたことがその作品群からはうかがい知ることができる。
私が一番心を惹かれたのは、金箔や銀箔を使った作品たちだ。これだけ金や銀を多用すると、ギラギラし過ぎて嫌味な感じがするはずだが、清之の作品には一切それがない。本物の自然を見るよりも、絵を見たほうがよりリアルに感動が伝わってくる。物の本質を見極め、デフォルメして再構成することに秀でた作家なのだろう。
凍えるような樹木の木肌を表現した『霧氷』、燃えたぎるような赤が印象的な仏を描いた『顔』、ちあきなおみが熱唱する姿を描いた『喝采』に魅了された。
着想から50年近くたってから描かれたという『緑扇』の竹の葉が重なり合う、清涼感のあるきらめきは、圧巻である。
一人の作家が描いたとは思えない、作品の変幻ぶりを堪能していくうちに、自分を制限しているのは、他の誰でもなく“自分”であることに気づかされる。
清之の絵は、日本画という小さな枠にはまりきることのできない、自由な魂があふれていた。静かに軽やかに、着実に自分の信じた道をまい進しつづける清之の姿に、ずいぶんと励まされた。
展覧会は年内は終了しているが、来年の1月11日まで開催しているので、ぜひこの機会に観に行ってほしい。年明け初日の1月3日は、観覧料が無料となるので、初詣気分で出かけてみるのもいいだろう。
写真は、根岸森林公園の美しい紅葉のシャワー。寒さが厳しくなるにつれ、葉の色の濃さが一段と増してきた。
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